ブックタイトルkouren670

ページ
10/20

このページは kouren670 の電子ブックに掲載されている10ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

kouren670

で、その審査員をお願いしたい。」と、3つの希望を述べられた。これに対し私は、弁理士は私1人,事務補助者3人の小さい事務所であり、連載中の月刊誌への判決速報の執筆や、各種の研修も引き受けているため余裕が全く無く毎月の発明相談は引き受けられない。しかし、問題があったときの相談や発明工夫展の審査は引き受ける旨、お答えした。そして、このような経緯から、以後、平成21年まで、私と発明協会沖縄県支部との緊密な関係が続くこととなる。 即ち、以後,出願人が沖縄県在住の個人または法人がした商標の出願公告公報、及び、出願人が県外の法人・個人であっても出願商標が沖縄にゆかりのある場合の商標の出願公告公報(公告制度が無くなってからは登録公報)と、執筆中の判決紹介が掲載されている月刊誌「特許と企業」を、発行の都度送付することとした。商標公報の送付は、「IPDL」により知財情報をインターネットで見ることが出来るようになるまで、雑誌の送付は、発行所である日本科学振興財団が解散するまで凡そ14年間続いた。その他、毎年秋に催される発明工夫展の審査は、平成21年(2009年)まで34年間続いた。世間一般の特許に関する認識 特許という言葉で一般の方はどのようなことを思い浮かべるだろうか。数十年前に新聞か雑誌の記事で読んだことであるが「特許」という言葉を聴いて何を連想するかとの問いに対し、色々挙げられる中で、一攫千金を挙げた人が比較的多かったのを覚えている。当時、家庭の主婦が洗濯機のゴミ取り装置の発明について特許をとり何百万円かで企業が買い取ってくれたとか、サラリーマンが通勤電車の中で考えた文房具の発明が大ヒットしたというような話が週刊誌等で面白可笑しく報じられたことが影響していたのかも知れない。世間にはそのような人もいるであろうが、殆どの人は、自らの事業に関わる発明に熱心に取り組んでいる人たちではないかと思われる。 尤も、世の中には、考えることが好きで、ソロバンを度外視して発明考案に没頭する人がいることも事実である。若い方にとっては名前を聴いたことすら無いかもしれないが、エノケンやロッパと並ぶ喜劇俳優で昭和47年に亡くなった柳家金語楼という人がいた。喜劇俳優と書いたが、落語作家,脚本作家,陶芸家の他、発明家とも言われた多芸な人で、自分の顔を商標登録したほか、多くの特許権や実用新案権を持っていた。しかし、その大半は、酒席の座興の踊りに使う「畳みかたを変えて頭に乗せると福助やヒョットコの面になる手拭い」とか、「上部に折曲げ用の切れ目を設けて箸置きに使える爪楊枝」というような、面白いだけで売れる発明は少なかったようであるが、小学校の運動会で子供たちが被る「赤白帽」も彼の考案であるから、実際に役に立った発明もあったようである。 企業にとって特許制度が如何に重要であるかについては、今更述べるまでも無い。或る技術について自社のみの独占ということは、100mの徒競走で全員がスタートラインで待機する中、ひとり20mか30m先の地点からスタートできるようなものである。極端な場合、スタートラインにはひとりだけで他人が立てない場合すらある。 私は、数十年前に知人の紹介で、注射器等の製造販売を業とする某小企業の社長宅にその知人と一緒に伺ったことがある。応接間の壁面には私の好みではなかったが、額に入った菊のご紋章入りの特許証・実用新案登録証が多数掲げられ、経営する会社の製品の殆どは、この社長の発明・考案によるものだということであった。仕事の上で不便を感じていたことの改良、より良い品質の商品の開発等、提案制度を作り、たとい,それがモノにならなくとも、良い提案に対しては表彰するようにしているので、発明の端緒は従業員からの提案によるものも多いとのことであった。話を聴いてみると、小企業でありながら、特許制度を有効に利用しており、大メーカーと対等の立場で取引が出来ているのは、それらの技術の裏付けによるものであることを体感した。 今日(8月13日)の東京新聞朝刊には、偶々,「中小の知的財産守れ」「大企業の不当取得防止へ」の見出しで、政府が中小企業の知的財産や技術を保護するための指針を今秋提示することが決まり2021年度の概算要求に盛り込む予定であることが報じられている。記事によると、小説「下町のロケット」に象徴される技術力や開発力の高い中小企業との取引に動く大企業が増えたことが背景にあり、中小企業庁が今年3月まで3年間をかけて各地の中小企業に聞取りを実施したところ、大企業との間に12,000件を超す取引があったが、その中には、大企業が「立会い」と称して工場を見学した際に、ノウハウを盗用された事例や、大手自動車メーカーと画像認識技術を共同開発した際に無断で特許出願され自動車以外の分野に利用された事例など、多くの問題が見付かっとのことである。立場の弱い中小企業の側では、取引を止められるのではないかとの疑念から、このような不正利用を断りにくくなっていたり、共同研究でありながら大企業だけが権利を保有できる一方的な契約が多い事実も判ったので、中小企業庁は、課題の解消に向けた具体策を盛り込み、予算面での後押しもする予定、とのことである。(次回10月号に続く)OKINAWA INDUSTRIAL FEDERATION NEWS 8