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琉球大学工学科環境エネルギーコース・教授 斉藤正敏saitou@tec.u-ryukyu.ac.jp薄膜成長統一的理解を求めて連絡先: 琉球大学工学部後援会事務局(電気電子系)米須章(電気システム工学コース)/山里将朗(電子情報通信コース)〒903-0213 沖縄県中頭郡西原町千原1番地 TEL.098-895-8692(米須)/098-895-8679(山里) FAX.098-895-8708【E-Mail】kouenkai-office@ml.tec.u-ryukyu.ac.jp1.序論薄膜成長を記述するハミルトニアンの存在は知られていません。その為,ツギハギだらけの物理(patchwork physics)で現象毎に理解しているのが現状であり、一つの方程式からすべてを理解する原理的理解からほど遠い現状です。このような現状を認識した上で、極めて簡単な実験系を組み、薄膜成長に新しい光を当てようとする試みを以下に示します。その実験系は、イオンを含む水溶液、二つの電極、電極間にパルス電流を流す電源からなり、一つの電極近傍で溶液中のイオンが電子を受け取り、原子になり、原子は、表面を運動して、薄膜を形成します。2.見出された現象(1)量子共鳴周波数図1に印加周波数とCo-Ni薄膜中のNi濃度を示します。共鳴周波数でNi濃度が著しい増加、また共鳴周波数間隔は0.1MHzです。これは、量子化されたイオンのエネルギー準位への転移を意味し、極大値は、その遷移確率が最も大きいことを示しています。このようにNi濃度が周波数で制御できることは、周波数を利用した濃度変調超格子や構造変調超格子への研究へと進めることになります。(2)構造相転移アモルファス構造:アモルファス薄膜は、自然界では稀であり、これは、結晶性薄膜の自由エネルギーの方が小さいためであり、人工的にアモルファス薄膜を作ろうとする極端な処理をする必要があります。私たちの研究室では、室温で形成したSn-Mn薄膜、Co-Ni-Fe薄膜がアモルファス構造となることを見出しています。何故、アモルファスになるのかという問いに答えるためには相転移点を見出し、その性質を見極めることが必要です。逆Stranski-Krastanov(SK)転移:薄膜は、成長と共に平滑な表面からラフな表面になります。これを順SK転移と呼びます。これは、表面エントロピーの増大により系が安定になるためと説明されています。しかしながら、鉄薄膜の場合、ラフな表面から平滑な表面になることがあります。図2に鉄薄膜はラフな平面から平滑な表面へ遷移する図を示します。これは、自由エネルギーの極値を取る点が複数あることを示唆しています。ウイスカー形成:錫薄膜や金薄膜において臨界膜厚を越えるとウイスカーが形成されることを見出し、図3は、錫と金薄膜上に形成されたウイスカーです。ウイスカーは電子産業では、大変な問題で回路ショートの原因となり、そのメカニズムが長年にわたって研究されてきましたが、依然そのメカニズムが不明な現象です。我々の研究室ではウイスカー形成過程において電磁気的なエネルギーの関与を示唆する結果を得ています。(3)平衡熱力学を越えて水溶液からアルミニウムイオン、ジルコニウムイオン、また鉄基イオンを含まない溶液中のモリブデンイオンやタングステンイオン、これらは薄膜にできないとされてきました。この主張は、熱平衡下で測定された自由エネルギーが正となるため、イオンが原子化する反応が進まないと考えられてきました。しかしながら、薄膜成長のような非平衡下では、そのような基準は、成立しません。実際、アルミニウム、ジルコニウム、モリブデン、タングステンを含む薄膜が形成できることを示してきました。ここでも電子に関するエネルギー準位遷移が成り立ち、適切なエネルギーを電子に与えることができれば、イオンは、原子化します。3.残された課題上記に示した現象を記述できる理論を構築することは、統一的な理解をするためにぜひとも必要なことです。そのハミルトニアンは、いくつかの特異点を含んでいるでしょう。私たちの研究室では、構造変調超格子、アモルファス化の探求、多元素薄膜形成原理の確立と研究を進めていく予定です。図1.Co-Ni薄膜中Ni濃度の周波数振動図2 Fe薄膜のSEM像 (a)膜厚10μm、(b)膜厚14μm図3ウイスカーのSEM像 (a)金薄膜、(b)錫薄膜OKINAWA INDUSTRIAL 20FEDERATION NEWS